今回から【MIX解剖】と題しまして、MIXさせていただいた作品が
・どんなふうにMIXされているのか?
・MIXのポイント
などを解説していけたらと思います。
第1回めとなる今回は
「ぷす様 https://twitter.com/Pusu_kun」の
【アサガオの散るこ頃に】
歌い手は「ちろ様 https://twitter.com/chiro_luchoco」
まずは完成品を聴いていただきましょう!
所々に入る印象的な蝉の鳴き声とシングルコイル風のロックなギターサウンド。
そしてちろさんの透き通る歌声が素敵ですね。
そして本題のMIXに関してですが、今回のポイントは
- 平歌とサビのEQ処理
- ブレスが感じられるコンプ処理
- オケのEQ
- 隙間を埋める空間系
以上の4つです。
それでは解説していきます。
AメロとサビのEQ処理
この曲は比較的シンプルな構成で、
イントロ→A1→サビ1→A2→間奏→サビ3→サビ4(転調)→アウトロ
といった流れです。
この曲の特徴として、Aメロの部分ではオケにベースがいない、そしてサビではベースとディストーションギターが入り所謂「ロックなサウンド」になります。
ですので、今回はAメロとサビでヴォーカルのEQ処理を変えることにしました。
全体の処理としては126HzでHPFをいれて、250Hz付近を広めのQで3db程カット、そして7kHz付近からシェルビングで2db程ブーストして、ちろさんの広域に伸びる歌声を活かしスッキリとしたサウンドにしています。
サビは、しっかりとバンドサウンドになっているのでこのくらいスッキリしたサウンドのほうが、ちょうどオケに馴染むように歌声を聴かせることができます。
そしてAメロですが、サビのようなバンドサウンドから、ごっそりベースがいなくなるので中低域が一気にスカスカになります。
もちろん、狙ってやっているでしょうし、コード使いも相まってサビで一気に盛り上がる感じを演出しています。
ですが、歌声をスッキリとしたサウンドに仕上げているため、全体として少し地に足がついていないような音になっていました。
そこでAメロ部分では300Hzを広めのQで3db程ブーストしました。
ローカットをもう少し下げることも試しましたが、なんとなく締まりが無い感じになったので300Hzをブーストする方を採用しました。
ボーカルの低音処理はオケとの関係でかなり変わってくるので、しっかりと聴いて慎重に判断しましょう。
ブレスが感じられるコンプ処理
ブレスって結構ないがしろにする歌い手さんやMIX師さんが多いと思うんですが、実は曲のテンポ感や雰囲気作りで非常に重要な役割を持っています。
また上手い歌い手さんはブレスのタイミングがテンポにしっかりと合っていて最高の隠し味になっていることが多いです。
今回MIXさせていただいた【ちろさん】はブレスのタイミングが非常に心地よく、それを活かしたMIXにしたかったので少し強めにコンプをかけました。
具体的には、基本的な処理の後に
- レシオ8:1
- アタック150ms
- リリース60ms
- 常に6〜8dbリダクション
- 上記の設定で2段がけ
こんな感じで、派手にコンプをかけました。
2段がけにしたのは、コンプ一発で一気に潰すと、かかり始めと終わりが少し不自然な感じになってしまったので2段がけで落ち着きました。
これぐらい極端にコンプをかけるとダイナミックレンジ(大きく歌うところと小さく歌うところの差)と引き換えに、ブレスや息遣いが強調されて、かなり雰囲気が出てきます。
しかし、この曲はAメロとサビ部分の差がキモの曲です。ダイナミックレンジが無いのはNG!
ですので、鬼のボリュームオートメーションで全体のダイナミックレンジを取り戻しました。
また、所々でコンプの2段目を抜いて歌声を開放するような演出をしてみました。
今回の【ちろさん】の歌は、
- Aメロ
- サビ地声
- サビファルセット
- 転調後の地声
- 転調後のファルセット
の5つに分解できます。
まず、サビのファルセットでコンプの2段目を一旦外して、Aメロで再び戻します。
次のサビのファルセット部分で再びコンプの2段目を外して開放。
その後の転調部分ではコンプの2段目を再び入れて、更にコンプがかかっていない歌を混ぜて、ファルセットになったらコンプの2段目を外して開放!
ちょっとわかりにくいですが、こんな流れになっています。
まとめると
- Aメロ〜サビ地声:コンプ①+コンプ②
- サビファルセット:コンプ①
- 転調後地声:コンプ①+コンプ②+コンプなし
- 転調後ファルセット:コンプ①+コンプなし
ちなみに、今回はすべてオートメーションで行いましたが、パートごとにトラックを分けて処理してもいいです。やりかたはお好みで。
オケのEQ
歌ってみたのMIXをする上でオケ(offVocalとか、カラオケ)の処理は結構気を使います。
この【アサガオの散る頃に】は中域を強調したギターサウンドがとってもかっこいい曲なんですが、一つ問題がありまして…
ギターと歌声のオイシイ帯域がモロかぶりだったのです。
ギターは2Kくらいにを強調した、TS系の歪のシングルコイルサウンドで、同じくちろさんも2kくらいにピークがある歌声でした。
ですので、歌のバックではオケのEQで2k近辺を広めのQで2~3dbカットしています。
ギターのオイシイ帯域ですが歌声を邪魔するようではいけないので、泣く泣くの決断です。
代わりに4kを軽くブーストしていかにもカットしました感をごまかしています。
もちろん間奏、ギターソロでは2kのEQは戻しています。
隙間を埋める空間系
この曲一番のこだわりポイント。「空間系」です。
ざっくり今回使用した空間系エフェクトは、リバーブ4種類、ディレイ3種類、モジュレーション系1種類の、計8種類です。
めっちゃ多いんで個々の解説は程々にしますが、
- オケと歌を馴染ませるための「Hall系リバーブ①」
- オケと歌のカラーを決める「Room系リバーブ」
- ヴォーカルに色気を出すための「Plate系リバーブ」
- ブレイクなどでさり気なく聴かせる「Hall系リバーブ②」
- ヴォーカルをちょっとにじませる「ショートディレイ」
- ボーカルを派手に聴かせるためにサビだけにかける「8分のテンポディレイ」
- 同じく「16分のテンポディレイ」
- ボーカルの音像を広げるための「ステレオコーラス」
1、2、3は、まぁ普通によく使うと思うので細かい設定は割愛します。バラードなのでタイム短めでたっぷりと。
4ですが、「アサガオの散る頃に」って歌詞の隙間やブレイク、音数の少なさがとってもいいですよね。で、その隙間をさり気なく埋めるためのリバーブです。プリディレイ、リバーブタイムをテンポと同期させてブレイクの間できれいに消えるように設定しました。
曲の持っている「儚い」イメージが伝わればいいなと思います。
5のディレイは隠し味で前編かけっぱなしですが、6,7のディレイはブレイクのたびにセンドでミュートしています。特にサビの終わりでミュートすることによって、サビの派手な感じとの落差で「儚い」感じや、寂しげな雰囲気が表現できたかと思います。
最後の8ですが、ダブリングに近い使い方で使用しています。
ボーカルに対して-20dbくらいと微かに聴こえるくらいですが、モノラルからほんの少しだけPANを広げてあげるとグッと歌の音像が大きくなります。
これはあんまりレベルを大きく出すと不自然になってしまうので、使用には注意が必要です。
まとめ
いかがだったでしょうか?
シンプルな曲ですが細かい作業の積み重ねがいいMIXにつながるので、いろいろ考えながらMIXするのはとても楽しいですね。
このブログを読んだあとにもう一度曲を聴いてみると、また違った印象になるかもしれません。
質問なんかも受け付けていますので、DMどんどんお待ちしております!